無償の想い
(上?)と思い顔を上げてみると目の前のビルから顔を出して手を振っている堂島さんの姿が見えた。

一ヶ月ぶりに見る堂島さん。

一瞬で暗い気持ちがどこかへ飛んで行く私。

あまりの嬉しさに「堂島さーん!」と思い切り手を振り返す。

「ちょっと待ってて!今下に行くから!」と堂島さん。

いつもこの人が登場する時は突然だ。

堂島さんが下に降りて来るまでの僅かな時間で化粧をチェック。

よし、特に問題なし。

数分後、堂島さんが降りてきた。

「久しぶり!あのお祭り以来だね。元気にしてた?」

そう話しかける堂島さんの笑顔は一ヶ月前と変わってない。

変わったのは私の心の中くらいだろうか。

「はい!元気にしてましたよー!堂島さんは?」

「俺もお陰様で元気にしてたよ。今会社帰り?」

「はい。堂島さんはまだ仕事中ですか?」

「いや、もう終わり。今日はそこで打ち合わせがあってね」

「お疲れ様です〜」

「麻美ちゃん、これから時間ある?」

「え?ありますけど…」

「じゃあ一緒にご飯でも行こうか?」

「そ、そんな…」

「困る?」

「いえ…困りませんけど…理子さんに悪いなぁって」

「やっぱり麻美ちゃんはそう言うと思ったよ。大丈夫。今日はこの前のお礼って事で。ね?」

(どうしよう…行きたい気持ちと理子さんに悪いって気持ちが…)

「ほら!行くよ!」

そう行って私の手を引いてくれる堂島さん。

慌てて歩き出す私。

もう心の中には迷いは無かった。

今日だけは良いよね。って自分に言い聞かせた。

途中、理子さんの顔が何度も浮かんでは消えていった。

それでも今は堂島さんの側に居たかった。
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