無償の想い
「あの、もしかしてこの番号とアドレスって堂島さん個人の…?」

「ああ、そうだよ。ウチの会社は携帯支給してくれないの。参っちゃうよね」

思わぬところでお宝をゲットした気分。

「気軽にメールしてきても平気だよ♪」と堂島さん。

貰った名刺を穴が開くほど凝視する私。

「そんなに良く見ても面白い事書いてないよ」と笑う。

仕事柄、名刺を頂く事は多いのだけど、こんなに名刺を貰って嬉しくなったのは働き出してから初めてだった。

心の中では踊りたくなるような気持ち。

宝物の様に名刺を仕舞い、ニコニコしながら堂島さんを見る。

堂島さんも私を見ながらニコニコしている。

「そんなに名刺を貰うのが嬉しかったの?」と堂島さん。

「え、いや嬉しいって言うかなんて言うか…わ、私名刺とかあまり貰った経験ないんでつい…」

「はは、そんなに欲しいならあと10枚くらいあげようか?たくさんあるし」

「1枚で大丈夫です。大切にします」

「そんな大げさな」と言って笑ってる堂島さん。

それでも嬉しい気持ちは抑えられない。

たとえ連絡先が分かったとしても、私から連絡する事なんてないだろうし…

でも、「知ってる」のと「知らない」のでは大きく違うはず。

何も変わらないかもしれないけれど、自分の中では大きく前進した気分。

「ねえ?麻美ちゃんは名刺持ってないの?」

「!?」


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