【キセコン】初秋の海物語

俺にはお手上げなのでソレを片手におじいさんに聞きに行く。
「おじいさんー。コレなんですか?」
「おう?
あぁ。底こすったか」
いや。何なのか聞いているんですが。
「ホヤだよ。マボヤかな?ウンメェぞ」
ホヤ?
「旬は5月だし、鮮度落ちるとガソリン臭いし、捨てとけ」
「リリースで?」
「海底の岩に張り付く動物だ。一度剥がしたらもう付けないさ。陸で干しとけ」
良いのかなぁ?
というか、動物なのか。


「ただいまー」
俺が戻ると、神山さんは笑顔で出迎え
「いがっ!」
ようとして固まった。

酸欠の金魚みたいにあうあうしている。
「な、何で持って帰っ…」

「マボヤだってさ。美味しいらしいけど」
神山さんが宇宙人を見るような目で見てくる。
「珍味系で『美味しく調理』が大変らしいから捨てて帰るよ」

神山さんが小さくつぶやく。
「なら向こうで捨ててよ」

うーん。割り開けてみたいとは言えないな。コレ。


気付けば太陽が随分と上がってしまっている。
「釣れてない所悪いんだけど、そろそろ引き上げると思うんだ」
ボウズのまま終わりって悔しいだろうけど…。
「うん!わかった!磯で遊んでて良い?」
神山さんが晴れやかな笑顔で言った。

…釣り嫌いになったかな。
少し凹む。

< 10 / 13 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop