【キセコン】初秋の海物語
「ほら。早く針を回収して」
竿の先から垂れた糸が遠心力でグルグル回っている。
「ヤだ!ムリ!」
むくれ顔から一転、またアオイソメへの恐怖で引き吊っている。
ならしないでくださいよ。
「俺からは無理だよ。竿をゆっくり立てて、体の周りを回る糸を掴まえて」
あ、駄目だ。
自分の周りを回るアオイソメを想像したんだろう。青を通り越して顔面蒼白になっている。
「じゃそのままリール放して」
地面に落ちた仕掛けを拾う。
さて、どうしたものか。
「コレ使え」
離れた場所に居るおじいさんから声がかかった。振り向くと身の詰まったストローが宙を飛んでくる。
中身は薄茶色い。なんかソーセージに似ている。
「何ですか?コレ」
「人工餌」
は〜便利なのがあるんだな。練り餌より固くて崩れにくく、太さは活き餌と似ている。
「固さはゴカイ。釣果は魚肉ソーセージ並み」
「意味あるんですか!?」
「こういう時用だ」
おじいさんのコウイウトキねぇ。
「お代は口止め料で」
「お前。口はあっちに似てくるなぁ」
ありがたく頂戴して、神山さんの仕掛けにつける。
これで神山さんも釣りが出来ね。
「落とした後も潮に流されるから、テグス見ながら弛みを取るんだよ」
「うん」
説明をしているのに神山さんはジリジリと遠ざかる。
「…五十嵐は使わないの?」
「量ないからね」
「…」
本っ当に駄目なんだな。アオイソメ。