ROSE~AI (ノンフィクション

家に帰ってすぐ

リビングへと向かう。


多分、いやきっと。


母が待ってる気がしたから。


「・・・・・・」


案の定、ソファーに座った母が、帰って来たアタシを見上げる。


「おかえりなさい。」

「・・・ただいま。」

家族では当たり前の言葉のやり取りが、
やけにぎこちなく、気恥ずかしく感じる。


優しい笑みを浮かべた、母の前に腰を下ろす。


「・・・・・」

「・・・・・」

二人共無言のまま、顔を見合わせて


話し出すきっかけを探した。



「あのね・・・・」

「・・・・・」

母が小さく口を開く。

アタシは息をのみ、次の言葉を待った。


「プロポーズ、うけたわ・・・でも、そしたらね・・・・・」

「・・・・・」

わかってた。

次の台詞は。


「どこに引っ越すの?」

先読みをして話し出すアタシに、母は溜息をつき答えた。


「東京に。」

「・・・・・」

東京か・・・・・

俯いたアタシに、母が苦しそうに尋ねる。


「本当に・・・いいの?バイトも・・始めたばかりだし・・・」


アタシは顔を上げて、小さく笑った。


「いいよ?」

「・・・・・」

母は安心した様に微笑む


本当は・・・

わからない。

引越しは初めてじゃないけど、でも


初めてだった。


ここまで何かに執着するのは。


相手の人の転勤先は東京


ここは神奈川。

そんな遠い距離じゃないし、むしろ近い。


だから大丈夫。

きっと、大丈夫。






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