王子様と秘密ごと




「…あ、…歩、くん」

私の前の席。

昨日のように椅子をまたいで後ろを向いた歩くん。



いつものように"まっつー"と私を呼んだ。昨日のように下の名前では呼んでくれない。

…当たり前、か。



なに考えてるんだろう。

馬鹿じゃないの。昨日ちゃんと諦めたはずでしょ。




なのに胸がどきどきして息が止まりそうで。

完全にあきらめられてない事が目に見えた。




「昨日はごめん、な」

ホームルームなのにざわつく教室内。

さほど大事な話をしていないらしい先生はそんなに注意もせず。



完全に先生に背を向けている歩くんを先生は注意しない。

できれば注意して欲しい。こんなの拷問だ。私は朝から拷問しか受けていない気がする。



謝られたって私のあのときの感情がなかったことになる訳でもない。

私の中でのあの出来事が消えるわけがない。



それに…。

歩くんが何に対して謝ってるのかもよく分からなかった。



キスしたこと?

勝手に帰ったこと?

それとも…。



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