政略結婚
政略結婚
―――人生が上手く行きすぎて怖い。
私はよほど前世で何か人徳のある行いでもしたのだろうか…?
社長令嬢の優香はそんなことをぼんやり考えながら夫からの愛撫を受け入れていた。
これは優香の父親が勝手に決めた政略結婚だ。
優香の夫になった男は父親が社長になる少し前から可愛がっていた部下でとても仕事のできるエリート社員。
会社の創立記念日に優香の家で毎年行われるホームパーティには必ず彼も参加しており、何度か会話をした程度の関係だった。
そんな彼と結婚してもうすぐ半年になる。
夫は多忙にも関わらず、毎日きちんと帰ってきて、優香の作った夕食を食べてから、夫婦の営みまできちんとしてくれる。
「優香、随分余裕そうだな。」
「そんな……っ、余裕なんて…ないです。」
「敬語は辞めろと言ってるだろ…優香は俺のことだけ考えてればいい。いつもそう言っているはずだ。」
「……うん…悟さん。」
ベッドが激しく軋み、優香は意識を飛ばさないように必死に夫にしがみつく。
夫が何を考えているのかは、婚約してからも、結婚して半年経った今も、全く分からない。
いや、1つだけ優香は知っている。
夫は次期社長の椅子が、目当てであること。
とても野心家で、自分の目的のためならどんな犠牲も厭わないことを。
それを分かっていて夫と結婚した。
この人に利用されていたとしても構わないと思った。
ほとんどまともな会話をしたことがない相手だったとしても。
優香は悟に惹かれていたからだ。
初めて会った時からずっと、どうしても惹かれてしまう。
二人の結婚の話を持ちかけたのは優香の父親で、悟はその話を快く受け入れたと聞いている。
優香も大学を卒業してからすぐに父の言われるがまま実家の会社に就職したため、悟の評判は自分の耳でも聞いていた。
悟はスラリと背が高く引き締まった体つきをしているため、女性社員にもかなり人気があった。
熱心な仕事ぶりは勿論のこと、普段は寡黙で浮いた噂1つ上がらない硬派なところも更に人気に拍車をかけていたことは言うまでもない。
なので、どうして優香と結婚してくれたのか全く分からないのだ。
優香が社長の娘であるということしか理由は思いつかない。
むしろ、次期社長の椅子を手に入れるための結婚だと考えた方がしっくりくる。
悟は25歳の優香よりも11歳年上の36歳だ。
年齢的に早く子供を作り自分の立場を確実なものにしたいと思っているに違いない。
ほぼ毎晩のようにベッドで散々揺さぶられて、執拗な程胎内に子種を植え付けられると愛されているのではと勘違いしそうだ。
だが、理由がなんであっても優香は幸せだ。
優香は悟を愛しているからだ。
愛情に見返りを求めてはいけないことは理解している。
早く悟との子供を授かりたい。
そして母親として悟との子供を愛情いっぱいに包みながら育てたい。
それが今の優香の望む幸せな未来であった。
****
深く繋がったまま優香の上にのしかかっていた悟が体を起こすと、優香は当たり前のように悟の首に腕をまわす。
散々教えこんだお陰で悟が体位を変えようとすると自然に優香も動けるようになっていた。
優香の背中を支えながら持ち上げると、悟はにやけそうな顔をなけなしの理性で引き締めながら愛しい女の首へとキスを落とした。
幸せで目がくらむとはこの事だと本気で思う。
出来ることなら毎日ずっとこのまま時間が過ぎてしまえばいいとさえ思ってしまう。
ずっと長年手の届かない存在だと思っていた彼女をこの腕で抱きしめて何度でも愛することを許される幸せを掴み取ることが出来た。
「…優香………愛してる」
悟がしゃぶりつき過ぎて赤く腫れてしまった唇からは可愛らしい小さな喘ぎ声が継続的に呟かれるだけで意志を持ってはいないようだ。
「……さとる…さん………すき…もっと」
「…あぁ、もっと気持ち良くなろうな」
未だに普段敬語が抜けない優香が舌足らずに甘えた声を出し始めると半分以上意識が飛んでいる合図ということだ。
それでもどうにか意識を保とうと必死に耐えている彼女が可愛すぎてたまらない。
このまま1度気を失わせてやった方が楽なんじゃないかと思いながらも狂っていく優香を眺めていたい欲求にも抗えない。
幸い明日は土曜日で休日出勤の予定もない。
このまま朝までゆっくり愛し合えばいい。
悟が何度目かの限界を迎えて優香のナカで果てると優香も一緒に深く達したようだった。
くたりと悟の肩に寄りかかったまま動かない優香の頬をそっと撫でると、心地よい声と共に頬をするつけてくる。
何度も繰り返しているはずの行為ひとつひとつがたまらない。
「…優香、まだ大丈夫か? 楽にしてていいからな」
彼女の返事を待たず、再びゆっくりと彼女の体をベッドへ押し倒す。
「…もう…いっかい…?」
「いつもしてるだろ?まだ日付も変わったばかりだしな」
悟は深く口付けると、さっきまでの優しい動きとは別人のように荒々しくベッドを軋ませた。
優香の苦しげな呻き声が部屋に響く。
シーツは既に2人の体液でぐちゃぐちゃだ。
――こんなに激しいなんて聞いてないです…
優香はそんなことを思いながら意識を手放した…