SEVEN WINGS
 あの時。そう、僕がここ、ビラージュ村に来た時。その時にはもう、それまでの記憶はなかった。5年たった今も何も思い出せない。
 でも『思い出』をなくしても、いわゆる『知識』らしきものはあった。そのため、苦労は少なかったと思う。でも何かするたびに、大きな穴を覗き込んだ様になるのは、今でも慣れない。
「ねぇ、ちょっとこっち来て」
 ティアが今度は、手のひらぐらいの木箱を持って、手招きしている。仕方なくティアのところに行く。するとティアが、ゆっくりと木箱のふたを開けてくれた。
 そこにはひとつの水晶玉があった。その水晶玉は半透明の紫色で、よく見ると何か黒いものが、うごめいているようにも見える。
 そのとき僕の中でひとつの感情が芽生えた。
 ――コワシタイ――
 ――アトカタモナクバラバラニ――
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