海までの距離
咲はまだ、私立の文系を受けることしか決まっていない。


「ところでこないだから気になっていたんだけど…真耶ちゃんのそのブレスレットはさ」


何の脈絡もなしに、咲は私のカーディガンの袖口から覗くそれに視線を投げかけた。
そう言えば、咲に何も話していなかった。
隠すつもりはなかったけど、言うタイミングと切り出し方が分からず、黙ったまま。


「貰い物?随分重たそう」


咲もよくブレスレットをしている。
隣のクラスの彼氏から貰った、ルビーが入った細いブレスレット。
だからだろう、私の手首のそれに目敏く気づいたのは。


「ううん、預かり物」

「預かり物?貰ったんじゃなくて?」


小動物のように小首を傾げる咲。
咲の言う通り、プレゼントだと思うのが普通だ。
だけど、これは私のじゃない。海影さんのもの。


「海影さんが、預けてくれたの」

「あー、雑誌に載っていたあのバンドマンか」


意外にも、海影さんの顔をしっかり覚えていてくれた様子。
私の言葉に、すぐに反応を示した。
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