海までの距離
「凪さん!?ええっ、これ凪さんの番号なんですか?」
『イエス』
「よく私の番号なんて覚えてましたね…」
はあー、と感心の溜息。
電話帳に登録してしまえば、電話番号を覚える必要は皆無なのに。
私は海影さんの電話番号なんて覚えちゃいない。
親の携帯番号ですら、覚束ない気がする。
『D高の記憶力、なめんな?』
いつかどこかで聞いたような台詞。
それが誘引してあの表情をフラッシュバックさせる。
自惚れてしまうから、やめて欲しい。
『面接、終わった?』
「ええ、はい」
『お疲れ様。今、どこ?』
「東京駅でお茶してます」
『えっ、もう帰るの?』
「制服姿でふらふらしてるのも…」
『いいじゃん、女子高生の特権なんだし』
「女子高生って言っても、所詮は新潟の田舎高校の制服ですもん。これじゃ、修学旅行ですよう」
むくれてみせるも、そんな表情、海影さんには伝わらない。
海影さんはけたけたと笑っている。