海までの距離


「海影のこと、出待ちしてたって。本当は別のメンバーのファンだった」


突発的な有磨さんの言葉がすぐに解釈できず、数秒考えてしまった。
考えて、「ああ…」と漸く理解する。


「LOTUSの時の話ですか?」

「そう。ドラマーの大ファンだった」


そんな嘘、何故震えながら告白する必要があるのだろう。
深意が掴みきれないまま、有磨さんが口を開いた。


「ここから先に話すことは、レナしか知らない。真耶ちゃんには、私がこの事実を知っていて欲しいと思うから話すね」


「…は、い…」


話が飲み込めないながらも、話の内容の密度だけはすぐに伝わってきた。


「私はLOTUSのドラムの人と、付き合ってたの」


声にならない声が、私の喉の奥から出た。
“吃驚仰天”という言葉はこういう時に使うのだろう。
だって、有磨さんからそんな素振りは微塵も感じられなかったから。
ごく普通の、バンドが大好きなお姉さんだとばかり思っていたのに。
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