海までの距離
そこまで深い繋がりがあったなんて。


「LOTUSの出待ちをしていて、彼が私に声をかけてくれた。まだ私も今よりずっと子供だったから、嬉しくてふらふらと彼についていったの」


ドンドンと、会場の中の音が私達がもたれている壁に響く。
次のバンドの演奏が始まったようだ。


「彼を手に入れるのはとても簡単だったな。だけど、その価値はとても低かった。彼には、私以外にも女は沢山いた。変なところでませていたから、『バンドマンだし、遊びたい盛りの男なんだから、仕方ないな』なんて思ったよ。虚しいって、心のどこかで分かってはいたんだけど、ね」


ビジュアル系バンドの裏側なんて、そう綺麗な世界ではないとは思っていた。
とは言え、私が勝手に想像していたそれと見事なまでに合致するとは。
あんまり考えたくない裏側。
あんまり聞きたくない真実。
それでも、私は有磨さんの話に耳を傾ける。


「最低最悪なことに、私はその男の子供ができてしまった」
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