海までの距離
その瞬間、


「こんにちは!」


後ろから、肩を叩かれた。


「うわあっ!?」


突然の出来事に、ひっくり返った声が出る。
こんな所に、私は知り合いなんて一人たりともいない!誰!?
慌てて後ろを振り返ると、


「あ…ごめんなさい!びっくりさせちゃって…」


K大の近くの、ライさんが連れていってくれたカフェの店員さんが、そこにいた。


「あの時の!」

「あは、覚えてくれてたんだ?」


可愛い表情で、笑いかけてくれるお姉さん。
ごみごみとした会場の中には若干似つかわしくない、ふんわりとした人。
今日は長い髪をゆるく巻いて、前を開けた白いダッフルコートから薄いベージュのシフォンワンピースを見せている。
お仕事スタイルもよく似合っていたけど、こういう格好もとても素敵で。
会場が暗かったから、お姉さんの存在に全然気付かなかった。


「新潟に住んでるってライから聞いていたから、まさかこんなところで会うとは思わなかった」


白い頬をピンク色に染めるお姉さんに、思わず私まで顔が綻ぶ。


「今日はハーメルンのライターとして上京しました」

「あっ、そう言えばK大受かったんだよね!おめでとうっ!」


お姉さんが両手を叩いた。
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