海までの距離
「そう。2月にJIGSAWがツアーをやるのは知ってる?」
「あ、はい…」
JIGSAWが新潟に来るということは、少し前から把握済み。
また有磨さん達と行こうかなと、何となくではあるがそう考えていた。
「海影君から聞いたけど、高校卒業までは久住さんは新潟にいるんでしょう?JIGSAWの次のツアーは、新潟が初日なのね。だから、久住さんにはその記事を書いて欲しいの。カメラマンは、ライブハウスのオーナーに写真撮って貰うから」
全てが最初から計画されていたかのように、萩原さんはすらすらとその段取りを話した。
唖然としたのも束の間、気付いたら私は、
「私でいいんですか?」
是非やらせて下さいと言わんばかりのことを口走っていた。
いろいろなことが突然やってきて頭が追いつかなかったけれど、本心では、「このチャンスを逃してたまるか!」と感じていたんだ。
萩原さんは私の質問にイエスともノーとも言わず、私が引き受けたことを前提に話を進めた。
「ページの割り当てとか細かいことは、後で連絡するわね。ああそう、その前に今日の件も」
萩原さんはそう言うと、手に掛けていた黒いコートを羽織った。