海までの距離



「そうですね。東京なんてあったかいもんですよ」

「そりゃ、話膨らませすぎだろ」

「海影さんだって新潟人だもん、新潟の寒さはよく分かるでしょう?」

「そうだな。でも、1年も経てば忘れちゃった」


その一言を呟いた海影さんの笑顔が少し寂しそうで、それは私の気のせいかもしれないけど、その一言に上手く返せない。


「年末、カウントダウンのイベントに出るんですよね?」

「おう。バイトじゃなくてこの業界で仕事納めが出来るのは有難いな」


聞いたことがなかったけど、海影さん、バイトしてるんだ…。
学生のライさんですらバイトしているんだから、海影さんが働いているというのも何らおかしな話じゃないか。


「それが終わったら、新潟に帰るんですか?」

「んー、帰らない。ってか、帰れない」

「年始からお仕事ですか?」

「しがないバンドマンだからな、粉骨砕身で働くんだよ」


海影さんが苦笑いを零す。
その仕事は、バイトの方なのか音楽の方なのか、これもやっぱり聞くに聞けない。
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