海までの距離
私が差し出したブレスレットを、海影さんは受け取らない。
不思議に思っていると、海影さんは私の手をそっと押し返した。


「それ、真耶にあげる」


戻された手に、海影さんの体温。
ブレスレットは海影さんに触れられることなく、私の手の中に留まっている。


「でも、だって、高いものだし大切なものだって…!」

「だから真耶にあげるんだよ」

「意味が!」


「意味が分からない」と言いたかったのに、なぜだろう、最後まで口にできなかった。


「何か理由がなきゃいけないとしたら…そうだな、じゃあ、誕生日プレゼント。クリスマスプレゼント。それと、合格祝いにちょっと早いけど卒業祝い。ほら、これだけ重なれば受け取れないなんて言えないだろ」


唖然。
何が何でも私にそれを持って帰らせようとしている海影さんの意地に、私はもう、何も言えない。


「大切な物だって…」


腑に落ちない気持ちが残る私は、馬鹿みたいに同じことを繰り返して口走るだけ。


「だから、真耶が大切にして。な?」


海影さんは私の手からするりとブレスレットを抜き取ると、私の左手につけ直した。
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