海までの距離
それはもう、器用なまでに。


「…大切にします」

「うん、宜しく」


握っていたブレスレットが温かい。
すっかりこのシルバーの重みに、私は慣れていた。


「ほら、バスが出発する。気をつけて帰りな」


私の背中をぽんと押した。
その勢いで、バスのドアへと1歩踏み出す。
バスの中は既に半数以上人が乗っていて、いよいよ出発しなければならない雰囲気。


「次は3月ですね」

「おう、またな。…ああ、そうそう」


私に手を振り掛けていた海影さんが、その手を下ろした。


「迎えに行くよ。俺も約束、守らなくちゃだからさ」

下ろした手は、真っすぐ私の前に。
いきなりのことに、私は戸惑う。


「真耶、握手」


海影さんがひらひらと手を泳がせた。
白くて細く長い指先は、夜の闇にも映える。
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