海までの距離
そのしなやかな手を捕まえるように、そっと握る。
その途端、ぎゅうっと力一杯握り返された。
太くてごつごつとしたリングが当たる。今まで感じたことのない感触。


「よいお年を」

「海影さんも、素敵なカウントダウンライブになりますように」


交わす言葉の中に、「好きです」の一言を含ませることができたらどんなに良かっただろう。
そんな勇気、今の私にはあるはずも無く。
それでも、海影さんの前で泣かなかっただけ大きな進歩だと思おう。
海影さんはバスが発車するまで、ずっと私を見ていてくれた。
















ライトダウンされたバスの中で、鈍く光るブレスレットに何度も触った。
私は海影さんが好きだ。
結論、その気持ちだけが変わらず単純に残っている。
それに対してあれこれ考え込むべきではない。
間違いなく、これはもう、恋愛感情なんだ。
だって、ほら、恋しくて仕方がない。
< 176 / 201 >

この作品をシェア

pagetop