海までの距離
黙り込んでしまった私に、海影さんは、


『ハーメルンは逃げないから。東京にもいるんだから。今しかできないことをしなさい』


久しぶりの説教口調で、そう諭した。


「だけど、私、翌日には東京に行くんですよ…。新潟でハーメルンを観るの、最後なのにな」

『最後ってことはないだろうよ。里帰りだってすればいいし、そもそも、ハーメルンはまだ解散しないんだから』

「うーん…」


そうは言っても、どうしても渋ってしまう。
だけど、どうしたいのかはもう決まっていた。


『っていうかさ、何、翌日から東京なの?随分早いね』

「あ、はい。安い学生寮に住むことになったんですけど、月末にはオリエンテーションもあるし、それまでに家財とかゆっくり集めようかなって思ってて」

『成る程。…じゃあさ、翌日は一緒に東京行こうか』

「一緒!?」

『ちょっと待って、今スケジュール確認する』


思わず声が裏返った。
それもまた冗談?
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