海までの距離
「ちょっと、有磨さん!?」
何を考えてか、有磨さんがそんなことを唐突に言い出して。
いや、大方“この子は痛い子じゃないんですよ”アピールをしてくれているんだろうけど、有磨さんは何故そんな微妙なポイントをプッシュする?
「へえ、なかなかいい趣味持ってんじゃん。まだ若いのにな」
予想外にも、海影が白い煙を燻らせながら、有磨さんのセールストークに乗ってきた。
「とんでもない!ネットで…個人サイトでちまちま書きなぐってるだけですから!」
海影の反応に、大慌てで首をぶんぶん横に振る私。
「えー、じゃあハーメルンのライブも書いてよ!そんで、うちの宣伝部長になって!」
無邪気に口を出してきたのはミチ。
「ねー?」なんて小首を傾げて、にこにこ、私の顔を覗き込む。
ある程度アルコールが入って、また随分と陽気さが増している気が…。
「…いつか、いつかは…」
ぽそりと蚊の鳴くような声が、自分の喉から出る。
「決まり決まり!…ありゃ、俺のビールなくなっちゃった」
「い、今頼みますね!」
ミチの参入により、私の話題は無事に逸れてくれた。
私は熱くなった頬を皆に背けて、座敷の引き戸を開け、「すみません!」と店員さんに声をかける。