海までの距離
「はいっ!」
煙草の吸い殻が無造作に突っ込んであるコーラの缶や、ヘアスプレーなどが目につく。
綺麗な車内とは到底言い難い。
男の人が5人もいるんだから、それを女の人1人でどうこうしきれる訳もないか。
車内は冷房をつけなくても、窓から夜風が入ってきて十分涼しい。
「家までのナビ頼むな、女子高生」
「はい!えっと、まずは県庁のある通りに出て欲しいんですけど…」
「了解!」
それだけ伝えると、海影は軽快にアクセルを踏んだ。
居酒屋では殆ど会話しなかったし、有磨さんとばかり話していたから、もっと怖い感じの人だと思ってた。
私に気を遣ってくれているのか、今の海影は意外にもフレンドリーだ。
でも、それでもまだ海影をまともに見ることができない。
ライブ中はあんなにも、海影に穴が開くんじゃないかってくらい凝視していたのに。
「女子高生、今何年生なの?」
「3年です」
「どこの高校?」
「M高です。あ、ほらそこに見える、あの学校!」
私がフロントガラスの先を指す。
「まじ!?進学校じゃん!あったまいーい」
「そんなそんな、落ちこぼれですよ。海影さんは?」
「俺はD高だった」
D高もまた、進学率のいい私立高校。
失礼ながら、バンドマンである海影がD高の卒業生であることに驚きを隠せない。