海までの距離


「すごーい!」

「M高生に言われても…」


海影が苦笑する。
私の通うM高を通り過ぎて、海影は煙草に火をつけた。
空いた窓から白い煙が流れて、夜の空気に溶けていく。


「じゃ、女子高生は今受験か」

「最悪なことに」

「はは。地元の大学受けるの?」

「うーん…東京の大学行きたいんですよね」


進学先など、漠然としていた。
ただ、私には地元の国立大学を受けるだけの実力もないし、東京の私立大学なら選択肢はもっと広がるはず。
東京に行けば、きっと何でも手に入る。何でもできる。
洋服だってアクセサリーだって、沢山ある。
Lilyも瑪瑙もEXITもJIGSAWも、ハーメルンだって、新潟より東京の方が沢山ライブをやっている。
大学に行けば、自由が手に入る。


「いいよ、東京は。何でもあるし、何でもできる」


丁度県庁に差し掛かって、私は「もう少し真っ直ぐ進んで下さい」と海影に指示を出した。
この時間の道路は異質なくらい空いていて、私達を乗せたワゴン車とあと数台しか走っていない。
噂からすれば、海影が上京して約半年。
海影は、東京に行ってハーメルンを組んで、ベースを奏で続けている。
着々と、栄光に向かって歩いている。
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