海までの距離
橋を飾るオレンジ色の外灯が窓から差し込んで、海影の髪に艶を含ませる。


「だったら、ハーメルンのも書いてよ。写真は撮られたことあっても、文章にされたことはないからさ」


海影の言葉に、私は動揺して鞄を膝から落としてしまった。
その様子に、海影が声を立てて笑う。


「そんなそんな!それはたかだか趣味で…!」

「でも、書いてるんだろ。なら見せてよ。そうだ、メールで俺だけに送ってくんない?」


頑として引かない海影。
そうまでして意固地になる理由が分からない。


「今運転中だから、後でアドレス送るわ。な、真耶ちゃん」


海影の声に掻き消されて、車内に流れる洋楽(これは多分COLDPLAY)が私の耳にから消える。
初めて私の名前を呼んでくれた…。


「分かり、ました…」


私はそう言わざるを得なかった。
海影は、納得したような横顔で国道を走る。
「海影君は堅いから」――凪の言葉が脳裏を過ぎった。
海影は魅力的だ。だから期待もある。
でも、いくらなんでも一端のファンに軽々しく連絡先を教えるのかという不信感もある。
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