海までの距離
「将来が不安じゃないわけじゃない。就職してサラリーマンになって…そういう人生が安泰に近しいというのなんてよく分かってる。でも、今はそのビジョンがまだちーっとも見えてこないんだわ。もしかしたら、3年になって周りが就職活動始めたらそれが見えてくるかもしれない」
「でも、その時にはハーメルンが凄く成長しているかもしれないですよね」
「そ。とんでもなくでっかいものになってるかもしれない。俺がハーメルンを捨てられなくなるくらい」
ライさんはニヤリと口角を上げて、上目遣いで私の目を見た。
まるで目の奥の奥まで、見透かされるような気がした。
「それまでは必死でやってやるさ。それに、海影君とミチ君は俺らが大学生だってことに絶対ケチをつけない。しかも、海影君は『無駄にサボるな』『授業受けろ』って親より口喧しいんだ」
「あはっ」
ライさんの最後の一言に、私は思わず吹き出した。
ライさんと凪さんにそう言ってる海影さんの姿が、容易に浮かぶんだもん。