海までの距離
ライさんに褒められると、くすぐったくてしょうがない。
ライさんがそうは言っても、やっぱり全面的にライさんのお蔭であることに変わりはない。


「何はともあれ、良かった良かった。…さて、残り少ない滞在時間だけど、折角だから東京見物していくか」


海影さんが私の頭に手を乗せた。
大きくて華奢な手。
これで2度目だ。
あの時は夜だったから暗かったけど、今はまだ夕方。
どうしよう…私、顔が赤くなってるかも!


「あっ、じゃあ俺はこれで」

「えっ?」


ライさんが1歩、後退する。
てっきり3人でどこか遊びに行くものだと思っていたから、残念な不意打ち。


「バイトの時間でしてな。しがないバンドマンはしゃかりきになって稼がないとやっていけないのだよ」


ライさんはそう言って笑った。
もしかしてライさん、バイトがあるのに私に付き合ってくれたんじゃ…。


「すみませんっ、私の面倒なんか見てたせいでバイトが…!」

「あー、いいのいいの。うちの店、シフトの融通が利くから今日は17時から出るって言ってたし」


またもやさらっと私の言葉をかわすライさん。
うーん、大人だ。大人すぎる。
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