海までの距離
海影さんがぴたりと立ち止まったのは、とても高いビルの前。


「…ここは…」

「サンシャイン」


海影さんがサングラスを外す。
サンシャイン。新潟に住んでいる私でも聞いたことある。
ナンジャタウンとかが入ってるんだっけ。


「新潟の水族館とはちょっと違うっけな」
(※「違うからな」)


初めて耳にする海影さんの新潟弁。
いつもお母さんや友達から聞く馴染みある言葉の筈なのに、海影さんの口から発されたそれは、違和感にも似た不思議なもののように感じる。











海影さんは私の分までチケットを買ってくれた。
水族館の中は日曜日だというだけあって、家族連れやカップルで溢れている。
それでも、思いの外ざわついてはいない。
新潟の水族館は海のすぐ側にあるのに対し、ここはビルの中。それも、大都会の。
何より、雰囲気がお洒落だ。お洒落すぎる。
薄暗くてムーディーで、神秘的。
海影さんの言う通りだ。一言で“水族館”と言っても、全然違う。
私達は人工の海の中をゆっくりと見て回った。


「まだ上京して間もない時にさ、東京湾でアサリを拾ったんだ。今より全然金がなかったし、『晩飯だ!』って思って持って帰って食ったのよ」


蒼々と揺らぐクラゲを見ながら、海影さんがいきなりそんなことを言い出した。
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