海までの距離
だから私は、震えそうな声をしっかりと押さえて、言葉を紡ぐ。


「それで、海影さんと東京で頑張るんだ。私、ハーメルンのサポートをしたいです。音楽ライターになりたい。ライターになって、ハーメルンをサポートしたい」


握り締めた掌がじんわり熱を持っている。
海影さんの視線を感じて、ゆっくりとその整った顔の方を向く。
海影さんは静かに微笑んで、


「有難う」


そう言ってくれた。
視界の片隅に、たゆたうクラゲがフレームイン。
海影さんの清んだ目が、水族館のブルーに溶けていきそう。


「こっちに来たら、一緒にアサリ採りに行こうな」

「まずいなら嫌だあ」


海影さんが私の肩にそっと手を置いた。
それが泣きたいくらい、嬉しくて。












私達は、高速バスの停留所のベンチに並んで腰掛けた。
停留所にはあまり人がいなくて、一層寂しさを募らせる。


「着く頃には夜中だな」

「12時近いと思います」

「暫くは新潟帰れねーなあ。ツアーはやるけど、新潟外しちゃってるし」


11月の頭にCDを出したら、年末まで全国ツアー。
ファイナルは12月26日、東京。
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