From Y
眠れるねこと眠れぬ羊
出会いはバス停のベンチだった。
「あのー」
遠慮がちな声がした。鈴木ねこが目を開けると、学ランを着た男子に割と至近距離から顔を覗き込まれていた。
「ん……?」
バスを待ちながら、いつの間にか爆睡していたらしい。ねこは起き上がってみて、自分がベンチに横倒しになっていたことに気づいた。
寝ぼけ眼で彼を見上げる。襟章から同じ高校の三年だとわかった。ねこより一つ上だ。
「起きた?」
切れ長の目は、鬼も裸足で逃げ出す――は言い過ぎかもしれないが、よく切れる果物ナイフみたいだ。うっすらとできた隈と相まって、たいへんな迫力となっている。が、顔立ちは端整といって差し支えない部類に入るだろう。ちなみにねこの好みだ。
「バス、来たけど」
三年は道の彼方を指差した。
「あ、ありがとうございます」
赤信号で停まっていたコミュニティーバスが、ちょうど動き出したところだった。
「多分、放っとかれたら朝まで寝てました」
「まさか」
三年は当然、ねこの言葉を冗談だと思ったらしい。
「今の季節にそんなことしたら凍え死ぬぞー」
三年の冗談めかした口調とくだけた笑顔を、ねこは意外な思いで見つめた。
「はあい、気をつけます」
笑えば全然怖くない。かなりギャップがあるようだ。
「凍え死ぬぞ」
前回より少し乱暴な揺さぶりで意識が戻る。目の前に、前回より隈の色を濃くした三年がいた。
「ごもっともです」
ねこは体を起こしてベンチから立ち上がった。
「なんでこんな所で寝てんの?」
三年が不思議そうに尋ねた。
「眠り病みたいなものでして」
ねこは、致死性睡眠障害という奇病に罹っている。不眠・嗜眠の二段階からなり、第一段階で眠れずに命を落とすこともあれば、第二段階で眠ったまま二度と目覚めないこともあるらしい。どこの過程で亡くなるか予測不能の病だが、罹ったが最後、四年以内に死に至る。現在、有効な治療法は無い。
「朝と授業中は睡魔との闘いですよ」
「あのー」
遠慮がちな声がした。鈴木ねこが目を開けると、学ランを着た男子に割と至近距離から顔を覗き込まれていた。
「ん……?」
バスを待ちながら、いつの間にか爆睡していたらしい。ねこは起き上がってみて、自分がベンチに横倒しになっていたことに気づいた。
寝ぼけ眼で彼を見上げる。襟章から同じ高校の三年だとわかった。ねこより一つ上だ。
「起きた?」
切れ長の目は、鬼も裸足で逃げ出す――は言い過ぎかもしれないが、よく切れる果物ナイフみたいだ。うっすらとできた隈と相まって、たいへんな迫力となっている。が、顔立ちは端整といって差し支えない部類に入るだろう。ちなみにねこの好みだ。
「バス、来たけど」
三年は道の彼方を指差した。
「あ、ありがとうございます」
赤信号で停まっていたコミュニティーバスが、ちょうど動き出したところだった。
「多分、放っとかれたら朝まで寝てました」
「まさか」
三年は当然、ねこの言葉を冗談だと思ったらしい。
「今の季節にそんなことしたら凍え死ぬぞー」
三年の冗談めかした口調とくだけた笑顔を、ねこは意外な思いで見つめた。
「はあい、気をつけます」
笑えば全然怖くない。かなりギャップがあるようだ。
「凍え死ぬぞ」
前回より少し乱暴な揺さぶりで意識が戻る。目の前に、前回より隈の色を濃くした三年がいた。
「ごもっともです」
ねこは体を起こしてベンチから立ち上がった。
「なんでこんな所で寝てんの?」
三年が不思議そうに尋ねた。
「眠り病みたいなものでして」
ねこは、致死性睡眠障害という奇病に罹っている。不眠・嗜眠の二段階からなり、第一段階で眠れずに命を落とすこともあれば、第二段階で眠ったまま二度と目覚めないこともあるらしい。どこの過程で亡くなるか予測不能の病だが、罹ったが最後、四年以内に死に至る。現在、有効な治療法は無い。
「朝と授業中は睡魔との闘いですよ」