From Y
「不思議なことに、お供えをしに行くと、前の日のパンと牛乳がなくなってたんです。そこで小さかった私は、『お供え物を受け取ってくれてるから、ここの神様に願い事をしたらいつか叶えてくれるだろう』という結論に達しました」
「ほう」
「あとは……そうですね、健康に良さそうなお茶を作ってみたりだとか」
「随分話が飛んだな」
「ハトムギとか玄米とか集めて、オリジナルのお茶を作ったことがあるんです」
 来夏の前ではいつも「お姉さん」だったけれど、羊の前だったらどんな話もできそうな気がした。
「月見草っていうのを入れる予定だったんですが、どうしても見つからなくて」
 何だったろう、あの植物の名前は。ねこは脳内で植物図鑑のページをめくった。
「スズメノ……カタビラ? みたいな名前の草を月の下に一晩置いといて、月見草の代わりにしました。ドクダミ茶も入れたんですけど、そこら辺に生えてたのを摘んで生茶にしてブレンドしました」
「すずめのかたびら? 雑草か?」
「雑草という草はありません。すべての草には名前があるのですよ」
 聞き覚えのある誰かの言葉を、ねこは勝手に引用した。
「そうして出来上がったお茶をですね、例の神社にお供えしたわけです」
「ああ! そこで繋がるのか」
「そうです。脈絡なく話してたわけじゃないんです」
 羊は真面目にねこの話を聞いている。
「手作りのお茶をお供えして、私はお願い事をしました」
「ほう」
 あ、しまった。
 ここまで話して、ねこは内心で頭を抱えた。この先を話したら絶対に空気が重くなる。
「なんてお願いしたか、覚えてないんですけどね」
「うわー、そういうオチ? 割と期待してたのに」
 いや、覚えてますよ? 覚えてますとも。重い話になりそうだから話さないだけで。
「……ふーん?」
 羊がわざとらしい笑顔になった。
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