From Y
「覚えてるんなら、オチ聞きたいんだけど」
「っ!?」
「やっぱ覚えてるんだ」
 羊は笑顔のまま、立ち上がってねことの間合いを詰めた。
「なんでわかったんですか!?」
「あははっ」
「……カマかけましたね?」
 ねこは羊から目を逸らした。
「重い空気になっても知りませんからね?」
「いーよ別に」
 だから、羊がどんな表情だったのか、ねこは知らない。
「ねこのこと、もっと知りたいから」
 深い意味はないのかもしれないが、ねこの顔を朱色にするには充分だった。
「……わかりました」
 羊を見上げると、思いの外真剣な眼差しが返ってきた。
「昔から、遊ぶより読書してることが多かったんです。ゲームとかテレビとか、皆が話してる内容に全然ついていけなくて、気がついたら友達がいませんでした」
 キィ、と、ぶらんこが軋んだ。
「だから、手作りのお茶をお供えして、『私に友達をください』って願い事をしたんです」
 どうですか暗いでしょう、とねこは笑ってみせた。
「つーか続きが気になる」
 ここから先は泥沼仕様である。純粋な羊に聞かせても良いものか、とねこは思った。
「続きはまた今度、ということで」
 話を切り上げて、ねこがぶらんこから立ち上がると、
「今度じゃ嫌だ」
 羊はねこの手首を掴んだ。
「明日がいい」
 羊は真剣な顔だった。
「じゃあ、明日の放課後に。ここで」
 ねこが言うと、羊は手を放した。


 雨が降っていた。
 ねこが待っても待っても、羊は来なかった。
 次の日も待った。その次の日も待った。土曜日も日曜日も待った。
 待って待って待って、眠くなったらぶらんこに乗って、親から携帯に電話がかかってくるまで待った。
 ……なんで来ないの。
 ベンチに座って、ねこは顔を伏せた。
 「ここにいるよ」って言ってくれたのに。今度じゃなくて明日がいいって言ったのは、羊さんでしょうに。
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