From Y
「いただきます」
羊が差し出したミルクコーヒーのパックを受け取り、一口吸ってみる。
「あ、これおいしい」
なるほど甘党の羊が好きそうな味である。
「ありがとうございました」
パックを返し、羊の顔が赤くなっているのに気づいた。
「どうかしました?」
「いや、……これ、間接かなぁ、と」
おんなじこと、考えてたんだ。
なんだか嬉しくなった。
「私も、おんなじこと考えてました」
ねこが白状すると、羊も笑顔になった。
嗜眠のねこと不眠の羊が一緒にいても衝突が少ないのは、ねこが不眠だったことを羊がわかってくれているからだと思う。
「……どした?」
でも、その日は、いつもと違っていた。
「……なあ」
ゆうべ、羊が死んでしまう夢を見た。夢の中で、ねこは泣いた。泣いて泣いて、泣き疲れて眠ったまま自分も死んでしまえたらいいと思った。
目が覚めてから、夢だと思ってほっとした。
「何かあった?」
公園に来て、後ろから羊に声をかけられて、ねこは無言で羊に抱きついた。何を聞かれても答えずに、声もなく涙を流している。
「……ねこ」
羊が器用にねこをベンチに座らせる。
「何をそんなに泣いてるんだ?」
「……怖いんです」
「何が?」
羊はねこの目元を親指で拭ってくれた。
「朝起きて、羊さんがもういなかったらと思うと、怖いんです」
「でもそれはもう、どうしようもねえだろ」
羊の声は低かった。
「怖いから起きてたいのに、私はどうしても寝ちゃうんです」
ねこが口を開くたびに、涙が零れた。
「そんな自分が情けなくてっ……」
揚げ句、あんな夢を見た。
「羊さんに置いてかれたくない!」
「俺だって怖えよ!」
突然、羊が声を荒げた。ねこがびくっと肩を竦めると、羊は声を落とした。
「俺だって、ねこが眠ったままだったらって思うと怖えよ。ねこがいるのが見えなかったら、ここに来れねえんだよ。会いたくなっても、ねこが来ないのが怖くて、ここで待てねえんだよ」
顎を掴まれた。
空白が一瞬。
「明日、待ってるから」
顔が離れてから、唇が重なったことを理解した。
「だから、今日はもう帰るぞ」
その日の帰り道、羊と初めて手を繋いだ。
羊が差し出したミルクコーヒーのパックを受け取り、一口吸ってみる。
「あ、これおいしい」
なるほど甘党の羊が好きそうな味である。
「ありがとうございました」
パックを返し、羊の顔が赤くなっているのに気づいた。
「どうかしました?」
「いや、……これ、間接かなぁ、と」
おんなじこと、考えてたんだ。
なんだか嬉しくなった。
「私も、おんなじこと考えてました」
ねこが白状すると、羊も笑顔になった。
嗜眠のねこと不眠の羊が一緒にいても衝突が少ないのは、ねこが不眠だったことを羊がわかってくれているからだと思う。
「……どした?」
でも、その日は、いつもと違っていた。
「……なあ」
ゆうべ、羊が死んでしまう夢を見た。夢の中で、ねこは泣いた。泣いて泣いて、泣き疲れて眠ったまま自分も死んでしまえたらいいと思った。
目が覚めてから、夢だと思ってほっとした。
「何かあった?」
公園に来て、後ろから羊に声をかけられて、ねこは無言で羊に抱きついた。何を聞かれても答えずに、声もなく涙を流している。
「……ねこ」
羊が器用にねこをベンチに座らせる。
「何をそんなに泣いてるんだ?」
「……怖いんです」
「何が?」
羊はねこの目元を親指で拭ってくれた。
「朝起きて、羊さんがもういなかったらと思うと、怖いんです」
「でもそれはもう、どうしようもねえだろ」
羊の声は低かった。
「怖いから起きてたいのに、私はどうしても寝ちゃうんです」
ねこが口を開くたびに、涙が零れた。
「そんな自分が情けなくてっ……」
揚げ句、あんな夢を見た。
「羊さんに置いてかれたくない!」
「俺だって怖えよ!」
突然、羊が声を荒げた。ねこがびくっと肩を竦めると、羊は声を落とした。
「俺だって、ねこが眠ったままだったらって思うと怖えよ。ねこがいるのが見えなかったら、ここに来れねえんだよ。会いたくなっても、ねこが来ないのが怖くて、ここで待てねえんだよ」
顎を掴まれた。
空白が一瞬。
「明日、待ってるから」
顔が離れてから、唇が重なったことを理解した。
「だから、今日はもう帰るぞ」
その日の帰り道、羊と初めて手を繋いだ。