From Y
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「……ふぅ」
 めっきり鳴らなくなった携帯を握り、柚はベッドで大の字になった。携帯を顔の上にかざして別れ際の彼氏のメールを読み返す。

  きみのトモダチならきみを困らせないんだろ?
  つかきみは俺よりもトモダチを信頼してるよな。
  俺と別れたいならそれは止めない。
  きみが俺と別れてそれで後悔しないなら。

 気取った文面を冷めた眼で眺め、ボタンを押して削除完了。
 ――そいつも同じかもしんないんだもん。
 彼氏にとって、由輔の存在はそんなに脅威だったのだろうか。
 ――たとえ私のことを好きだとしても、私を困らせることはしないから。
 咄嗟に放った自分の言葉を反芻し、由輔にどれほど信頼を寄せているかを改めて知る。
 ――俺よりもトモダチを信頼してるよな。
 そうだよ、と柚はココロの中で呟いた。
 由輔は優しくていい奴だよ。傍にいると安心できるし。私よりよっぽど濃やかだし。私は甘えてばっかりで、一学期の間に一年分くらい迷惑かけたかもしれない。私にできないことでも由輔はできるから、私がやらなきゃいけないこともやってもらってばかりだった。

 中間テストが終わり、校内が文化祭モードに入った五月下旬。柚が一人目の彼氏と別れる一か月前のことだった。
「階段装飾?」
「そう。オレ絵描けないから後は頼んだ!」
「ちょ、待って!」
 柚に仕事だけ振って爽やかに退場しかけた実行委員の袖を捕まえ、
「図書委員の私に何をしろと?」
 実は私も絵描けないんです。とは言えない柚は、とりあえず実行委員の彼に説明を求めた。
 要するに、一枚の大きな絵を描いて階段に貼り付けるらしい。下から階段を見上げると、角度とモチーフによっては迫力のあるものになるとか。
「雪谷さんなら美術部の人と仲良いから、上手いこと描いてくれるかなって思って。じゃ、あとはよろしく!」
 爽やかに手をあげて今度こそ退場した実行委員を見送り、柚は我に返った。
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