From Y
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 由輔の次に好きになった人がいた。
「柚って結構いっぱい彼氏いるよね」
 由輔に告白してから一年と少し経った秋の夜。場所は海の向こうのとある国、消灯から四時間が経過したホテルのベッドの上。
 二年生最大のイベント・修学旅行である。
「ってか、いま何時? もう二時? はやっ」
 柚は友人と徹夜でガールズトークに挑んでいた。
「柚って一年のときから先輩一筋だよね」
「どうなんだろうねぇ」
 只今、去年の秋に付き合って別れた『先輩』に未練があり、ひとり切なく片想い中。実は以前由輔に告白して振られたことは、この友人にも話していない。
「五日間も先輩の顔見れなくて死んじゃうかと思ったけど、意外とやってけるもんだね」
 冗談めかしてうそぶきながらも、ココロの中では、いちばん長く自分の傍にいる奴を思い浮かべていた。
 修学旅行で日本を離れて、気づいたことがある。
 『先輩』とは一年生の秋に出会って冬に別れた。顔を合わせるのは部活の時間のみ。
 対する由輔は入学当時からほぼ毎日を一緒に過ごしている。お約束というかなんというか、修学旅行の班も一緒だったりする。
 人生――と言うと大袈裟だが、高校生活において『先輩』がいない時間は由輔がいない時間よりも多いのだ。必ず帰るという前提があるからかもしれないが、『先輩』と物理的に離れた今、柚の心は意外と平静だ。それどころか、心のどこかには『先輩』と離れてほっとしている部分もある。『先輩』の卒業を考えると胸が軋むが、その時が来たらあっさり受け入れて見送れそうな気がしないでもない。
「まあ……卒業式の日にもっかい告白しようと考えてはいるけど」
「マジで? 頑張って! あたしめっちゃ応援してるから!」
 俄然張り切る友人に、柚は「ありがと」と笑顔を向けた。

***

 そして、卒業式。
 柚と由輔は見送る側だった。
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