From Y
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 卒業式から三週間。
 柚は、長かった髪をばっさり顎の辺りまで切った。
「あげる」
 登校日で久しぶりに顔を合わせた由輔に、柚は紙袋を強引に押し付けた。
「なに?」
「初めて作ったから味の保証はできないけど健康に害はないと思うよ。フライングも甚だしいけどもうすぐ誕生日でしょ?」
 照れのあまり早口になったが、由輔には聞き取れたらしい。伊達に二年も柚の友達をやっていない。
「賞味期限は?」
「保って明日まで」
「ていうか中身なに?」
 自分で作っておいて何だが、口に出すのがやけに恥ずかしい。
「えっと……パイ」
「また高度なものを……」
 独りごちながら由輔が紙袋を受け取ってくれた。
「中、苺ジャムだけど大丈夫? あんずと迷ったんだけど無難なほうにしてみた」
「あんずは未経験。苺で正解」
 心なしか、由輔の笑顔が嬉しそうに見える。
「実は去年もらったカップ、もったいなくて使ってないんだよね」
「ちょ……使ってよ、使わないほうがもったいないんですけど!」
 去年由輔にあげたのは、マグカップとグラスのセットだった。春先にあげるにはマグカップは若干遅い気がするしグラスはもっと暑くなってからが普通だろう、ということで両方買ったのだ。
「飾ってある」
 柚の頬が熱くなった。
「飾るなー!」
 よく見ると、由輔の頬も赤くなっていた。
「……お礼は誕生日に。今年は何食べたい?」
 たまに由輔から「食べたいお菓子は?」とメールが来る。「乳製品&缶詰のみかん」と返したら、缶詰みかん入りの牛乳寒天を作ってきてくれた。由輔より三ヶ月早い柚の誕生日にも、やはり手作りのお菓子をくれるのである。
「由輔のおすすめがいい」
「作り甲斐ないこと言うなよ……」
 柚はしばらく考えて、
「由輔が作ったプリンとか食べてみたいけど、ショートブレッドの味も忘れられない。でも牛乳寒天も好き。ってことで、作れそうなやつを頼みます」
「楽しみにしてて」
 由輔の言葉に、柚は笑って頷いた。

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