From Y
 三年生になって初めてクラスが離れた。
「由輔いないと居場所がない」
 あまりにご無沙汰だったので、思わず由輔に電話をかけてしまっている初夏の夜。携帯越しに小さく吹き出した由輔の声は、電話口だといつもより甘い。
「なによ?」
「すごい声。どんだけブンむくれてんの?」
「ブンむくれ……っ?」
 思わぬワードに絶句していると、由輔が微妙に心配そうな声音になった。
「友達いないの?」
「いますけど! そうじゃなくて……」
 出席番号的な意味でも由輔の隣に収まっていることが多かったのに、今年は見知らぬ他人ばかりである。年度始めの各式や検診のときは本が必需品になった。
「心細いっていうか……転校したみたいっていうか……」
 語尾が細くなり、柚はネズミのビーズクッションを抱きしめて言葉を切った。
「由輔はそんなことないでしょ? 友達もたくさんいるみたいだし」
「そうでもないよ。後ろの席の人と喋ったことないし」
 何となく会話が途切れてしまう。微かに聞こえる由輔の呼吸は寝息のように穏やかで、
「……今ね、ネズミのクッションさわってるんだけどね、大学行って一人暮らしするときも持ってこうと思った」
 いつもなら沈黙も嫌なわけではないのに、どこかにある切迫感が柚に言葉を接がせた。
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