From Y
「ねえ」
 ピンチの時に現れる王子様で、仏様レベルにおおらかで、気遣いは濃やかで、柚が抱きしめれば応えてくれて、手作りのお菓子で柚の胃袋をがっちり掴んだ。
 ねえ由輔。あんたと知り合ってから、他の人とはこんなにくつろいで過ごせないって気づいちゃったよ。助けてほしいタイミングで来てくれておいしいお菓子作ってくれてココロ広い人、この先もう現れないと思うんだけど。
「……おととしの捨て猫を拾うのってアリだと思う?」
「アリじゃない?」
 比喩はちゃんと伝わったようだ。
「でも拾うならあと半年経たないと無理」
「じゃあ半年後予約ね」
「でも大学合格できなかったら保留だよ」
 柚の短気な性格を見越して由輔が釘を刺す。
「わかってるよーだ」
 由輔には見えないながらも舌を出してやった。
 切った髪が出会った頃の長さに戻るまでに拾ってもらえますように。
 ――のちにお参りに行った神社にて、合格祈願も兼ねた祈りである。

***

 長い回想から帰ってくると、式もいよいよ終盤らしかった。
 入学式ではこのタイミングで宴もたけなわがどうのこうの、余計なことを考えて校歌が飛んだ。
「校歌、斉唱」

 ひとしきりクラスメイトたちと騒いだ後、柚は卒業アルバムを抱えて由輔のクラスを訪れた。
「なんか書いて」
 アルバムを渡すと、
「じゃあこっちの書いて」
 由輔のを渡された。
「……」
 「三年間ありがとう」とか無難にまとめようとペンを握ったが、思考方向転換。
「ねえ、まだ?」
「……まだ。終わるまで見ちゃだめ」
 最後に名前を描き入れて、由輔とアルバムを交換する。
「わ……」
 寄せ書きスペースを一ページ使って、おととしの階段装飾と同じ絵が描かれていた。

“犬の方が好きだったんだけど(笑)
             矢野由輔”

< 30 / 33 >

この作品をシェア

pagetop