From Y
「俺が年下だから? 牧野さんがねこ先輩より年上だから?」
「ううん」
 自分の想いが届かないのが気に入らない、切なさと紙一重の我が儘。
「じゃあ、」
「欲しい言葉をくれたから」
 ねこは静かな口調で来夏の言葉を遮った。「俺じゃダメなんすか?」では、羊には敵わない。思えば、ねこは来夏に労られたことがなかった。
 二人の間に、再び沈黙が流れる。
 やがて来夏が口を開いた。
「牧野さん、先輩になんて言ったんすか」
 羊がねこに言った言葉は、ねこのものだ。他の誰にも聞かせたくない。
「言いたくない」
「ねこ先輩って自分勝手っすね」
 何も言い返さず、ねこは口を閉ざした。反駁する気力も失せた。
「あのさ、先輩に対してその言い草は失礼じゃね?」
 割り込んだ声は、羊だった。いつの間にか診察室から戻ってきたらしい。
「鈴木さーん、鈴木ねこさーん」
「いってらー」
 ねこはほっとして立ち上がった。
「行ってきます」
 待合室を振り返ると、来夏はもういなかった。

 病院を出ると、羊は低い声でねこに訊いた。
「今から、ちょっと話せる?」
「はい」
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