From Y
 二人は、目に留まった公園のベンチに腰掛けた。
「犬井来夏……だっけ。あいつ、何? なんで、あんな失礼な物言いされてんの?」
「元彼です」
 ねこと来夏の最初の関係は、女子が圧倒的に多い部活の、先輩と後輩だった。部内で孤立していた来夏は、気さくな性格のねこには気を許していた。やがて部内に「一年の犬井来夏と二年の鈴木ねこは付き合っているらしい」という噂が立ち、来夏は部員に煽られるようにしてねこに告白した。弟分として認識していた来夏の告白に戸惑ったねこは、ぶっちゃけ断った後の気まずさを回避するためにOKしたようなものだ。
 恋人というよりは姉弟のような関係だったとねこは思う。ねこが中学二年、来夏が一年の秋から始まった付き合いは、二年半以上続いていた。
 年度が変わる数日前だった。
 来夏から『四月からまた同じ学校だね』とメールが来たことを、今でも不思議と覚えている。
 数週間前から眠れない日が続いたねこに、「致死性睡眠障害」と診断が下った。
 病院の帰り道、ねこは『私と別れてください。さよなら』と来夏にメールを送った。病気のことを知ったら来夏はねこと別れないだろうから、理由は言わなかった。
 メールを送って一分もしないうちに、来夏が電話をかけてきた。両親には先に帰ってもらって、ねこはこの公園に立ち寄った。
 別れ話がまとまったのは一時間後だった。
「致死性睡眠障害っていう病気に罹ったの。余命は保って四年以内って言われた。私は近いうちに死んじゃうから、来夏はもっと長生きしそうな人と幸せになって」
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