From Y
 ねこが言うと、来夏はこう訊いた。
「俺じゃダメなの? 俺が傍にいても、ねこの支えにはなれないの?」
 そうではないのだ。ねこの支えになって、ねこが死んだらどうするのか。
「その気持ちは嬉しいけど、私には受け取れない」
 来夏のことを考えたら、別れるのが最善だと思ったのだ。
「今までありがとう。……さよなら」
 ねこは一方的に電話を切って、二度と来夏からの電話に出なかった。
「私が死んだとき、来夏に『置き去りにされた』って思わせたくないんです。来夏には、早いとこ先がある恋人を見つけて、私がいなくても平気になってもらいたいんです。いっそ来夏に嫌われてもいいんです」
 羊は、どこか痛むような表情でねこの話を聞いていた。
「不誠実にも程がありますよね。気まずくなるのが嫌だからって付き合って、最後まで来夏のこと、恋人として好きにならなかったんですから」
「好きになれなかっただけだろ。不誠実じゃなくて、優しすぎたんだよ」
 はっきり言い切る口調だった。心が救われたような感じがした。
「よく頑張ったな」
 ねこを優しく労るその言葉で、ついに涙腺が決壊した。
「ごめんなさい……っ」
 羊を労る言葉も、羊を思いやる余裕も持っていないから。
 涙で声を途切れさせながら「ごめんなさい」と繰り返すねこの頭を、羊はそっと撫でてくれた。
「ねこは何も悪くないよ」
 泣きながら首を横に振った。
「今まで、一人でよく頑張ったな」
 嗚咽を堪えて俯くと、ぱたぱたと雫が滴った。
「俺は、そんなねこが大好きだよ」
 限界だった。
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