From Y
「もう、頑張らなくていい」
 ねこは両手で顔を覆った。
「お願い……傍にいて……」
 羊はねこの頭を撫でながら囁いた。
「ここにいるよ」
 もう、がんばれない。
 ねこは声をあげて泣いた。

 ねこが泣き止むと、羊はねこの鞄も持って立ち上がった。
「……落ち着いた?」
「おかげさまで」
 日が暮れてから少し経った薄青の空には、ぽつぽつと星が輝いている。
「そろそろ行こうか」
「はい」
 バス停に向かいながら、ねこは羊に聞かれるままに来夏のことを話した。
 土日の部活のとき、本当は友達と食べたかったのに、来夏に泣き付かれて二人で弁当を広げていたこと。練習時間は来夏の指導に追われて自分の練習が満足にできず、毎日家で自主練習をしたこと。そのうち、来夏がねこの家の自主練習に行きたいと言い出し、ねこに断られて手がつけられないほど拗ねたこと。この頃から同学年の部員に「男好き」と言われ、女子の後輩から「犬井だけ贔屓しないでください」と抗議されるようになったこと。
「なんかもう、めちゃくちゃだな」
「余命宣告されたとき、残り時間まで来夏に振り回されるのは御免だって、正直ちょっと思っちゃいました」
「そりゃそうだろ」
 羊が苦笑する。
「お疲れさん」
 何気ない羊の一言で、また涙腺が少し緩んだ。
「羊さんは、彼女さんいらっしゃらないんですか?」
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