From Y
「いないいない。いたことない」
 羊は肩をすくめた。
「意外すぎます。こんなに優しくて懐深くて見てくれも良い人、今まで会ったことありません」
「そんなに俺を褒めてくれたの、ねこが初めてだ」
 羊の乗るバスが道の向こうから来た。
「じゃあ、気をつけて」
「羊さんもお気をつけて」
 ねこが乗るバスも、反対側から来るのが見えた。
「羊さん」
「ん?」
「私も、羊さんのこと大好きです」
 言い放った瞬間に顔が熱くなった。羊の顔をまともに見られず、ねこは身を翻して道路を渡った。

 「羊さん大好き」宣言の翌日。風邪気味だったねこは、学校の近くのコンビニに寄った。
「あ」
 洋生菓子の棚近くに羊がいた。目が合った瞬間、ねこは顔が熱くなったのがわかった。
「こ、こんにちは」
 真剣な顔でゼリーを選んでいた羊は、そのままの姿勢で固まっている。
「ゼリー、お好きなんですか」
「お、おう」
 甘党なんだ。可愛い。心の中で呟き、ねこは風邪薬とミント味のガムを買った。
「お先に」
 ねこが会計を終えても、羊はまだゼリーを物色していた。
 コンビニを出てから、次の通院まで羊と顔を合わせる機会がないことを思い出し、ねこは足を止めた。またコンビニに入る勇気はないので、自販機を見上げて飲み物を眺める。
「よ」
 心臓が跳ねた。
「ねこ、買い物早いな」
 やっと店から出てきて、悩み抜いて買ったらしいゼリーを大事そうに鞄にしまった羊は、
「なぜ逃げる」
 一歩後退して微妙に距離を取ったねこを、怪訝な顔をして見つめた。
「察してください、……恥ずかしいんです」
 かぁぁぁ、と羊の顔が赤く染まった。
「……言われたほうも恥ずいんだけど」
「さ、先に言ったのは羊さんですよ?」
 何となく気まずくなって、ねこは顔を赤らめたまま周りを見回し、何か話を逸らせそうな話題を探した。
 と、
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