ぞうもつや
母が帰って、しばらくして麻酔が切れてきて体中痛みが
襲ってきた。しかもすごく寒い。熱が上がっているらしい。
看護婦さんに電気毛布をかけてもらう。
「痛かったら、痛み止めの注射打つから言ってね。」
と言われたが、自殺していたら
これより痛かったんだと自分に言い聞かせながら我慢した。
この痛みに耐え抜いてみせる、
痛みこそ生きている証なんだ。
そこにぞうもつやさんが来た。
「大丈夫?痛み止めを打ったほうがいいんじゃないかな?」
大丈夫です。まだがんばりたい・・・
「でも、どうして私死ななかったの?」
と聞いた。
「本当にあなたに死んでもらうつもりだったら自殺止めてませんよ。
自殺してから臓器をもらってた。あなたに生きてもらうために、
ここにつれてきたんです。みゆにはその価値があると思ったから。
死ぬことを覚悟した人間だけに与えられる
生まれ変わった実感をあなたにプレゼントしたかった。」
「生まれ変わった私・・?」
「あなたは変わった。どん底を経験して、いじめにも決着をつけた。
しかも死んでしまうかもしれない、何人もの人の命を救った。
これから自分はどう生きるのか、何をしたいのか、
自由に夢を見るだけの資金も手に入れた。
この先の人生、底からスタートしてどれだけ這い上がれるか
這い上がったときに生まれ変わった実感が感じられると思う。」
「入院している間に考えるといいよ。時間はたっぷりあるから。
また来るね。」
ぞうもつやさんが帰っていった。