下田の空[短編]
その店は、海の住処という店名にたがわず、豪快な磯料理を売り物にしていた。下田の片田舎とは思えぬ豪華な料理を平らげた後、私たちは元いた玉泉寺へと引き返した。
岸壁に打ち寄せる波は先程より高く、そのしぶきは防波堤を飛び超えて私の肩まで飛来した。私たちはそれを右手に、元来た道を歩いた。
沈黙は続いた。いや、続けられた、と言った方が近いかも知れない。えも言われぬ緊張を真横から感じつつ、しかし、私は母と共に歩き続けた。
雲は斑模様のように濃淡が分かれていて、かつ不気味なほどこの世界を暗くしていた。雨が降り始めるのも、時間の問題だった。

< 10 / 20 >

この作品をシェア

pagetop