下田の空[短編]
足がしびれる。五分とたたず、私はやむなく正座から横座りに移行した。
式は淡々と進んだ。もっともお経の意味など分からない私には、式が進んでいるかどうかすら分からないが。
何分くらい経ったか、僧侶から、祖母から順に焼香に来るよう指示があった。私たちは一番最後に焼香に向かった。
大叔母の遺影は、かなり昔の写真を使ったものだった。私は眼を閉じ手を合わせ、冥土の幸せを願った。眼を開くと、彼女は優しく私に微笑みかけていた。
私が席に戻ると、続いて友人一同の焼香が始まった。皆、落涙していた。もしその姿だけを観ていた人がいたなら、親族と友人があべこべに見えたことだろう。
式の間じゅう、私たちはおし黙っていた。悲しいからではなかった。黙っていた方がいいような気がしたから。
そういう自分自身が、何より悲しく感じられた。

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