下田の空[短編]
佳奈美ちゃん、と親しげに呼びかけられ、私は振り返った。するとそこには、伊武雅刀が老けたような顔をした、見知らぬおじいさんがいた。
「いやぁ悪かったねぇ、受験も近いのに…あぁ、私はこのあたりの高校の校長総会の会長をやっている、米田といいます…ほら、あそこに居るのが私の家内…洋子ってんだ。亡くなった妙子ちゃんの姉さんだ」
私は誰かと話をしている洋子さんを見て、頭を抱えた。やはり、妙子さんに生き映しだったからだ。
「…どうした?」
心配そうに米田さんが顔を覗き込んで来た。私は首を何度か振って、ようやく
「大丈夫です。何でも。」とだけ答えた。
「そうかそうか……で、どうなんだい?」
「…え?」
唐突にまじまじと顔を見られて、私は戸惑って顔をしかめた。
「大学は?もうセンター利用は決まってるんだろう?第一志望はどこだい?国公立は受けるの?」
矢継ぎ早な質問を突然ふっかけられまごまごしていると、今度は急に大声で笑いながら、
「はっははは…いやいや、まあ頑張りなさいな…」
とだけ言うと、ぷいと背を向けて、お堂の廊下をミシミシ言わせながら立ち去ってしまった。私は呆気に取られ、漸く開いた口が塞がらなかった。


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