下田の空[短編]
みどりの窓口で、特急電車を聞い

た。この時間、ここ川崎発車では

下田に行く都合の良い電車はない

らしい。やむなく私たちは横浜へ

移動し、そこから特急『踊り子

103号』に乗りこんだ。

がらんとした座席指定の車両は、

昨今の特急電車の人気の無さを象

徴していた。人気の無いそこで、

私たちは前の座席を反転させ、足

を伸ばして寛いだ。そこで私は世

界史のノートを開き、来るべきセ

ンター試験に向け勉強を開始した



だが車内は、まさに踊り子よろし

く揺れが激しかった。出発直後、

問題集に筆を立てていた私の手が

、まずは墜ちた。やむなくノート

見直しとしたが、その計画も小さ

すぎる私の字のせいで頓挫した。

それならばと思い、世界史の資料

集を倒した机の上に広げた。お盆

サイズのその机には、無理な相談

だった。

そんなこんなで、勉強をしようと

いう目論見を見事に潰された私は

、暫時世界史の用具一式を恨めし

く眺め回した後、諦めて、遂に予

備で持って来た芥川龍之介全集を

手にし、読み始めた。

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