下田の空[短編]
石段を上ってくる私たちに気付く

と、祖母は私にふらふらと近付き

、私の腕を掴まえるとうわ言の様

に言った。

「ああ…まさか…まさかこんなこ

とになるとはねえ…」

祖母は、あからさまに狼狽してい

た。

「佳奈、あなたも体には気をつけ

るのよ…うぅ…ああほんとにねぇ

…」

自分自身の心配をした方が良いの

ではと思わせる弱々しい声を私に

掛けると、彼女はお堂へと去って

いった。

私たちも記帳を済ますと、祖母を

追ってお堂に這入った。

ちょうどその時だったろうか。真

冬の海風が、私たちの喪服を吹き

揺らしたのは。


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