下田の空[短編]
第三章
廊下はフローリング敷きで、つい
最近張り替えしたようだった。
佳奈美、挨拶するわよ。母親は私
にそう言うと、親戚一同が集まる
控室へ入った。
十畳程ある控室は静かだった。談
笑するはずもなく、かといってさ
めざめとすすり泣く声もない。取
り乱した人もなく、皆至って平静
を保っていた。
「あら葉子さん、お久しぶりね」
ストーブの前で暖をとっていた女
性が、私たちに気付くと、こう声
を掛けてきた。一面に座っていた
他の人たちも、皆一斉に頭を下げ
てきた。
「この度は本当に…何と言ってよ
いやら……」母はその人とお辞儀
を返すがえす交わしながら、しん
みりした声で言った。
「もうほんとにねぇ…まさか末っ
子のあの子が逝くとはねぇ……」
「佳奈美、おばあちゃんのお姉さ
ま。多恵子さんよ」
母は私に耳打ちした。私はうやう
やしくお辞儀した。
最近張り替えしたようだった。
佳奈美、挨拶するわよ。母親は私
にそう言うと、親戚一同が集まる
控室へ入った。
十畳程ある控室は静かだった。談
笑するはずもなく、かといってさ
めざめとすすり泣く声もない。取
り乱した人もなく、皆至って平静
を保っていた。
「あら葉子さん、お久しぶりね」
ストーブの前で暖をとっていた女
性が、私たちに気付くと、こう声
を掛けてきた。一面に座っていた
他の人たちも、皆一斉に頭を下げ
てきた。
「この度は本当に…何と言ってよ
いやら……」母はその人とお辞儀
を返すがえす交わしながら、しん
みりした声で言った。
「もうほんとにねぇ…まさか末っ
子のあの子が逝くとはねぇ……」
「佳奈美、おばあちゃんのお姉さ
ま。多恵子さんよ」
母は私に耳打ちした。私はうやう
やしくお辞儀した。