桜が散るその日
「さて、お稽古だね」
母様は立ち上がる。奏も急いで立ち上がる。ちらりと、桜の木に目を移す。もうバイオリンの音は聞こえない。しかし、彼は確かにそこにいた。今もいるだろうか。明日もいるだろうか。
ちらりと見るだけのつもりだったのに、奏は知らないうちに熱心にそれを見ていた。
そんな奏の頭を、ぱしりと手のひらで母様は軽く叩く。
「ぼーっとするんじゃないよ。さぁ、ささっとする」
はっとして、廊下を早足で移動する。
その後ろをゆっくりのんびりついて行こうとした母様は、床に落ちているうす桃色の花びらを見つけた。
それは、さっき髪を梳く際に奏が落とした桜の花びらだった。母様は拾った花びらと、隣の屋敷にある桜の花びらを見比べた。
この屋敷には、母様の趣味でたくさんの植物が植えられているが、桜の木はなく。近場には、隣の屋敷のもの。
そう言えば、桜田先生のところに息子が二人いたはずだと母様は思い出した。そして、下の方は奏と同じくらいで、確か二つ年上だなと微笑んだ。
今まで箱入り娘で、ろくに友達がいなかったあの子に友達ができるかもしれないと、嬉しかった。
あの子は、良家の娘になんか生まれてきてしまった、かわいそうな子だから。自由な今のうちに友達を作って楽しい思い出を作っておくのもいいだろう。
成人を迎えてしまったら、あの子は…。
母様は立ち上がる。奏も急いで立ち上がる。ちらりと、桜の木に目を移す。もうバイオリンの音は聞こえない。しかし、彼は確かにそこにいた。今もいるだろうか。明日もいるだろうか。
ちらりと見るだけのつもりだったのに、奏は知らないうちに熱心にそれを見ていた。
そんな奏の頭を、ぱしりと手のひらで母様は軽く叩く。
「ぼーっとするんじゃないよ。さぁ、ささっとする」
はっとして、廊下を早足で移動する。
その後ろをゆっくりのんびりついて行こうとした母様は、床に落ちているうす桃色の花びらを見つけた。
それは、さっき髪を梳く際に奏が落とした桜の花びらだった。母様は拾った花びらと、隣の屋敷にある桜の花びらを見比べた。
この屋敷には、母様の趣味でたくさんの植物が植えられているが、桜の木はなく。近場には、隣の屋敷のもの。
そう言えば、桜田先生のところに息子が二人いたはずだと母様は思い出した。そして、下の方は奏と同じくらいで、確か二つ年上だなと微笑んだ。
今まで箱入り娘で、ろくに友達がいなかったあの子に友達ができるかもしれないと、嬉しかった。
あの子は、良家の娘になんか生まれてきてしまった、かわいそうな子だから。自由な今のうちに友達を作って楽しい思い出を作っておくのもいいだろう。
成人を迎えてしまったら、あの子は…。