桜が散るその日
-惜しいな。朔財閥が手を出してなかったら、私の息子に……-
-朔財閥が今、一番力を持っているんじゃないか?そんなとこと、誰も張り合いたくないよな-
-しかし、御曹子があれだろ?いささか、桜の君が可哀相ではないか?-
朔財閥。奏もその名は耳にしたことがある。詳しいことは知らないが、一代で偉業を成し遂げ、一気に頂点に君臨したと。兄様がつまらなさそうに、そうつぶやいていた。
奏はいつか、そこに嫁ぐんだ。
世の中からすると、奏は羨ましい存在なのだろう。
そんなに羨ましいなら、あげる。いらない。いらないのに、どうして。
いくら褒められても嬉しくなかった。知らないたくさんの誰かじゃなく、想っている人に言われたいのに。
自分が世間でどんな評判なのか、この前痛いほど知らされた。知りたくない。知りたくなかった。
朔財閥の様な金持ちの家に嫁ぐためにがんばっている令嬢も、たくさんもいるんだろう。でも、奏は違う。ただ、母様が喜んでくれるから。母様が大好きだから。それだけだったのに。
あの桜が散って、大人になって、そうすれば自由になって好きなことができると思ってた。
今は、大人になることがただ怖い。
すっと頬に何かが伝った。
アイタイ。